ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

預金通貨の発行-信用創造・政府支出・銀行支出・現金入金

 今回は市中銀行による預金通貨の発行について説明します。金融システムを理解する上で、最も基本的、かつ、重要なことの一つですが、十分に理解している人は少ないように思います。

 家計や企業などの民間で流通している民間流通貨幣 (マネーストック) には、現金通貨 (紙幣・硬貨) と市中銀行に残高データとして管理されている預金通貨 (銀行預金) があります。

 現金通貨は、預金通貨との交換(銀行からの現金の引き出し)によって得られますので、ここでは、主に預金通貨が発行される仕組みについて、述べます。

 さて、預金通貨が発行されるのは、次の4つの場合だけです。

  • 信用創造による場合
  • 政府支出による場合
  • 銀行支出による場合
  • 現金入金による場合

 以下、それぞれについて説明します。

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1. 信用創造による預金通貨の発行

 預金通貨は、日本銀行が発行しているわけではありません。預金を管理している銀行が発行します。銀行は企業に融資すると、借用書を預かり、そして、銀行口座台帳にあるその企業の口座残高を融資額を加えた数字に書き換えます。これが預金通貨の発行となります。預金通貨は、預金口座台帳でその残高が管理されているだけですので、銀行口座残高が増えれば預金通貨の発行、預金口座残高が減少すれば、預金通貨の消却となります。

 これを信用創造による通貨発行と言います*1 。預金通貨は、昔であれば、預金台帳に万年筆で記帳することで発行されたことから、万年筆マネーと呼ばれることもあります。

 銀行が企業に融資して、預金通貨を発行する場合についてバランスシート(賃借対照表)を用いて説明します。

 現実とは異なりますが、本質を分かりやすくするために、最初は、銀行にも融資先の企業にも資産も負債も何もない状態とします*2

資産負債
0円0円
融資前の企業のバランスシート。


資産負債
0円0円
融資前の銀行のバランスシート。


 銀行が企業に1,000円融資した場合、企業の預金口座に1,000円が振り込まれ、銀行は企業から借用書を預かります。この融資によってバランスシートは次のように変わります。

資産負債
銀行の預金 1,000円銀行からの借入金 1,000円
融資後の企業のバランスシート。


資産負債
企業の借用書(貸出金) 1,000円企業の預金残高 1,000円
融資後の銀行のバランスシート。


 何もない状態から、銀行への融資により、企業の預金が生まれます。これが、信用創造により、お金が生まれる仕組みです。

 実際には、準備預金制度があるため、預金残高に応じて日銀当座預金に残高を確保しておく必要があり、もう少し複雑になりますが、基本的には、融資によってお金が生まれるということに変わりはありません。

2. 政府支出による預金通貨の発行

 政府支出の支払いによっても、預金通貨が発行されます。

 政府は、その事業支出の代金を政府小切手で支払いますが、それを受け取った企業は、その小切手を銀行に持ち込んで、自分の銀行口座に振り込んでもらいます。

 図に政府支出によるバランスシートの変化を示します。支払い前にあった政府預金の支払い代金は、銀行の当座預金に入金され、銀行は企業の預金口座に支払代金を入金します。

 これで、企業の銀行預金残高は支払い代金分だけ増えます。また、日銀当座預金残高が増えてマネタリーベースが増加するとともに、銀行預金残高の増加分のマネーストックも増加します。

f:id:toranosuke_blog:20190604103039j:plain 政府支出による預金通貨の発行。


 政府預金は、税金の徴収や国債発行によって、増加します。国債発行による政府預金の増加については、次回説明します。

マネタリーベース=(日銀券発行高)+(貨幣流通高)+(日銀当座預金) *3

マネーストック:「マネーストック統計とは、「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」を示す統計です。具体的には、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(=金融機関・中央政府以外の経済主体)が保有する通貨量の残高を集計しています。 」*4

3. 銀行支出による預金通貨の発行

 銀行支出によっても、民間の預金残高が増えます。銀行が代金支払いや配当・利払い、顧客からの現金の入金を行えば、企業の預金口座残高が増えます。

 代金払い・配当・利払いの場合には、マネーストックは増加します。現金の入金では、マネーストックは変化しません。

3.1 購入代金支払い

 銀行が物品を購入し、その代金を支払ったときに、預金通貨が発行されます。このとき、銀行のバランスシートは、支払代金分大きくなります。

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銀行支出による預金通貨の発行。


 ここでは、物品の場合で説明しましたが、例えば、電気料金などの支払いでも預金通貨は発行されます。その場合に、バランスシートはどうなるのでしょう?

 損益計算書の結果を反映して、バランスシートは作られます。電気料金の支払い行為だけを抜き出して、損益計算書を作るとすると、電気料金の支払いだけでは売上はなく、赤字決算となりますので、バランスシートの純資産の利益剰余金を減額することになると思います。

3.2 配当・利息の支払い

 銀行の純資産の利益剰余金から株主に配当を行うと、純資産が減少し、株主の預金口座残高が増えます。マネーストックは増加しますが、銀行のバランスシートの大きさは変わりません。

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配当による預金通貨の発行。


 預金への利息の支払いも、同様に純資産の減少をもたらし、預金者の口座残高が増え、マネーストックが増加します。銀行のバランスシートの大きさは変わりません。

 逆に、融資先からの利払は、預金残高を減少させ(預金通貨が消滅)、銀行の純資産を増加させます。預金通貨の消滅により、マネーストックは減少しますが、銀行のバランスシートは変わりません。

 融資先の利息が他行の預金口座から振り込まれた場合には、銀行のバランスシートは利払い分だけ増加します。一方、他行の預金が減少するので、マネーストックは減少します。

4. 現金入金による預金通貨の発行

 現金の入金によっても、預金残高が増えます。現金の入金による預金残高増も預金通貨の発行と言えますが、預金通貨と現金通貨の交換と呼んだ方がよいかもしれません。

 現金(紙幣・硬貨)の入金は、現金通貨と預金通貨の交換ですから、マネーストックは変化しません。マネタリーベースもこの段階では変化しません。但し、銀行が現金を日本銀行に返却すると、マネタリーベースは減少します (付録A参照)。

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現金入金による預金通貨の発行

5. 最後に

 市中銀行が発行する預金通貨について説明しました。信用創造・政府支出・銀行支出・現金入金によって、預金通貨は発行されます。

 発行の逆には消却がありますが、これは、基本的には消却と逆の流れでバランスシートが変化します。例えば、融資の場合には、借金返済で預金通貨が消却します。政府への支払い(税金納付)や銀行への出資、現金引き出しでも同様に預金が減少します。

 マネタリーベースに直結する日本銀行による預金通貨発行についても、機会があれば、説明していきたいと思います。

(2019/6/4)

付録A. 紙幣・貨幣の返却

 銀行が紙幣や貨幣の現金通貨を日本銀行に返却する場合について説明します。日銀券は日銀の負債ですが、硬貨は政府が発行した貨幣で日銀にとっては資産となります。このため、返却時のバランスシートに違いがでてきます。

 紙幣や貨幣を引き出すときは、返却と逆のバランスシートの変化となります。

A.1 紙幣の返却

 銀行が紙幣を日銀に返却すると、銀行の当座預金残高が増え、日銀の日銀券発行残高が減少します。マネタリーベースは変わりません。

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紙幣の返却。

A.2 貨幣の返却

 銀行が貨幣(硬貨)を日銀に返却すると、銀行の当座預金残高が増えます。硬貨は日銀の資産として計上されますので、日銀のバランスシートが拡大します。この場合も、流通貨幣量が減少しますが、当座預金が増えるので、マネタリーベースに変化はありません。

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貨幣の返却。

*1:筆者は、銀行は預金を集めて、それを貸し出すのではなく、融資をして預金通貨を発行するという立場をとります。銀行が集めた預金を種銭(本源的預金)として、銀行が貸し出しをするという説がありますが、準備預金制度で準備率を0%とすれば、当座預金残高を維持するのに必要な本源的預金は必要なく、ゼロからお金を生み出すことができるからです。また、日銀が設定している準備率は金融機関や預金の種類によって、0.05%から1.3%ですが、仮に1%の準備率であるとすれば、約100倍の融資ができることになります。当座預金が十分にある状態では、その残高の100倍の融資を1回で行うことができます。本源的預金を必要とする説では、当座預金残高の本源的預金を複数の金融機関が関わる融資の連鎖によって説明しますが、本来1回で取引可能な取引を融資の連鎖で説明することに合理性を感じません。

*2:準備預金制度を適用しない場合で説明しています。

*3:日本銀行, 「マネタリーベースの開設」, 2015.

*4:日本銀行, 「マネーストック統計のFAQ」, 2018.