ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

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ドーマーの定理の証明(5):インフレ率ゼロのときの成長率と国債発行額の関係

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 今回は、インフレ率との関係を考えてみたいと思います。実は、これがMMTにおける財政スペースと密接に関係しているのではないかと思っているのです。でも、MMTについては詳しくはないので、間違っているかも。

 貨幣数量説に基づいて、インフレ率をゼロになるように国債を発行すると仮定すると、毎年の国債発行額と実質GDP成長率との関係が定まります。今回はこの関係について説明したいと思います。

1. インフレ率ゼロのときの成長率と国債発行額の関係

 今回、証明するのは、次の命題です。

インフレ率ゼロのときの成長率と国債発行額の関係
 インフレ率をゼロとするように毎年の国債発行額を決める場合、国債発行額は、GDP成長率と同じ比率で貨幣が増えた時の貨幣増加量に等しい。また、国債残高の対GDP比率は、当初の貨幣量の対GDP比率に収束する。

2. 証明

2.1 貨幣数量説

 貨幣数量説によれば、ある時点 t での貨幣量 M_t、貨幣流通速度 V_t、GDPデフレータ P_t、実質GDP Y_t の間には、次の関係式が成り立ちます。

\displaystyle
M_tV_t = P_t Y_t 

2.2 貨幣量の増加

 ここで、時点 t と時点 t+1 での間のインフレ率はゼロ、つまり、P_t=P_{t+1}(=P) を仮定します。貨幣流通速度についても、V_t=V_{t+1}(=V) で一定と仮定します。

 このときの関係式は、次の通りです。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
M_t V & = & P Y_t \\
M_{t+1} V & = & P Y_{t+1} \\
\end{eqnarray}

 従って、

\displaystyle
\begin{eqnarray}
M_{t+1} & = & \frac{Y_{t+1}}{Y_{t}}M_{t} \\
\end{eqnarray}

 時点 t と時点 t+1での貨幣の増加\Delta M_tは、次の通りです。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\Delta M_t & = & M_{t+1} - M_{t} = \frac{Y_{t+1}-Y_{t}}{Y_{t}}M_{t} = y_tM_t\\
\end{eqnarray}

 ここで、y_t は、実質GDP成長率です。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
y_{t} & = & \frac{Y_{t+1}-Y_{t}}{Y_{t}} \\
\end{eqnarray} 

  つまり、貨幣数量説の等式が成り立つためには、成長率に応じて、貨幣量の増加が必要となります。

 また、貨幣量 M_t は、次式となります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
M_t & = & (1+y_{t-1})M_{t-1} = \left(\prod_{i=0}^{t-1} (1+y_i)\right) M_0
\end{eqnarray}

2.3 GDPの増加

  実質GDP Y_t が成長率 y_t で成長するとき、実質GDPは次式となります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
Y_t & = & (1+y_{t-1})Y_{t-1} = \left(\prod_{i=0}^{t-1}(1+y_i)\right) Y_0\\
\end{eqnarray}

 また、名目GDP G_t は、次式です。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
G_t & = & PY_t \\
& = & P\left(\prod_{i=0}^{t-1}(1+y_i)\right) Y_0\\
& = & \left(\prod_{i=0}^{t-1}(1+y_i)\right) G_0\\
\end{eqnarray}

 なお、名目GDP成長率 g_t と実質GDP成長率 y_t は、インフレ率ゼロのため等しくなります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
g_t & = & \frac{G_{t+1}-G_{t}}{G_{t}} = \frac{PY_{t+1} - PY_{t}}{PY_{t}} = \frac{Y_{t+1}-Y_{t}}{Y_{t}} = y_t
\end{eqnarray}

2.4 GDPと貨幣量の関係

 貨幣量 M_t と名目GDP G_t の比を求めると、

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{M_t}{G_t} & = & \frac{M_0}{G_0} \\
\end{eqnarray}

 従って、

\displaystyle
\begin{eqnarray}
M_t & = & \frac{M_0}{G_0}G_t \\
\end{eqnarray}

2.5 国債発行額と貨幣の増加量

 インフレ率ゼロにするために必要な新規貨幣の発行を国債発行額 b_t に伴う政府支出で行うと仮定します。

 ここで、国債は、市中銀行あるいは中央銀行が引き受け、通貨発行するとします。また、国債以外の市中銀行の信用創造による貨幣供給は、無視します。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
b_t & = & \Delta M_{t}  \\
& = & y_{t}M_{t} \\
\end{eqnarray}

 つまり、国債発行額は、GDP成長率と同じ比率で貨幣が増えた時の貨幣増加量に等しくなります。

 なお、このとき、国債発行額の対GDP比 \alpha は、

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\alpha & = & \frac{b_t}{G_t}  =  \frac{y_{t}M_0}{G_0}
\end{eqnarray}

2.6 ドーマーの定理の適用

 実質GDP成長率 y_t (=y) が一定で正であれば、ドーマーの定理*1により、国債残高 B_t の対GDP比は、収束します。その収束値は、次の通りです。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\lim_{t\rightarrow\infty}\frac{B_t}{G_t} & = & \frac{\alpha}{g}  =  \frac{yM_0}{gG_0}  =  \frac{M_0}{G_0} \\
\end{eqnarray}

 つまり、初期の貨幣量と名目GDPの比に収束していくということです。

3. 具体例

 例えば、貨幣量M_tをマネーストックM3の1300兆円、名目GDP G_t を500兆円、実質GDP成長率 y_t を2%とすると、発行可能な国債額 b_t は次の通りです。


\begin{eqnarray}
b_t & = & \Delta M_t = y_t M_t = 0.02 \times 1300 \mbox{兆円} = 26{\mbox 兆円}
\end{eqnarray}

 また、このときの国債残高の対GDP比の収束値は、次のようになります。


\begin{eqnarray}
\lim_{t\rightarrow\infty} \frac{B_t}{G_t} & = & \frac{M_0}{G_0} = \frac{1300}{500} = 2.6 = 260\%
\end{eqnarray}

 年間26兆円の国債を発行しながらも、国債残高比率は一定に保てます。

4. MMTとの関係

 MMTには、財政スペースという考えがあるようです。この財政スペースは、貨幣数量説的に説明すれば、潜在的な生産量(生産能力)Y_1 と現在の生産量(生産能力)Y_0 のギャップ \Delta Y (=Y_1-Y_0) ということではないかと思います。

 この生産量のギャップ \Delta Y は、生産資源が活用されていないために生まれます。活用されていない生産資源の例が、失業者のような人的資源です。この人的資源を有効活用するように、政府支出(=貨幣供給=\Delta M)を行うことで、資源を活用します(失業をなくします)。

 これが、ざっくりとしたMMTの解釈ですが、MMTerの方には怒られるかもしれません。

 さて、貨幣数量説としては、貨幣供給 \Delta M に見合った生産 \Delta Y がなければインフレが起こります。職業保証プログラム(JGP) では、その辺りはどうなっているのかなとちょっと気になるところではあります。

5. 最後に

 今回は、次の命題を証明しました。

インフレ率ゼロのときの成長率と国債発行額の関係
 インフレ率をゼロとするように毎年の国債発行額を決める場合、国債発行額は、GDP成長率と同じ比率で貨幣が増えた時の貨幣増加量に等しい。また、国債残高の対GDP比率は、当初の貨幣量の対GDP比率に収束する。

 今回の証明では、インフレ率はゼロ、貨幣流通速度も一定と仮定していますが、次回は、インフレ率・貨幣流通速度の変化も考慮した検討を行いたいと思います。

(2019/9/6)

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