ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

老齢基礎年金を保険料徴収から消費税徴収に切り替えるとどうなるか?

 現在の老齢基礎年金のようなベーシックな年金を、消費税で賄ったらどうなるでしょうか?基礎的な年金を、消費税によって国民皆で負担するというわけです。

 消費税で負担するのであれば、年金保険料を支払う必要もないので、保険料の未納付で無年金になる恐れもなくなります*1

1. 老齢基礎年金の給付額

 年金は、年金特別会計で会計処理されています。この特別会計では、年金を以下の3つの勘定で管理しています。

  • 基礎年金勘定:老齢基礎年金を給付するための勘定
  • 国民年金勘定:国民年金のための勘定。福祉年金・特別障害給付金給付はこの勘定で行い、残りの大部分は基礎年金勘定に組み入れます。
  • 厚生年金勘定:厚生年金のための勘定。老齢厚生年金はこの勘定で給付し、老齢基礎年金部分については、基礎年金勘定に組み入れます。

 2019年度の年金特別会計の主な資金の流れをまとめると、次の図のようになります(各年金勘定収支の詳細は、付録A参照)。

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年金特別会計の資金の流れ。


 最終的に給付される老齢基礎年金は、24.7兆円です。そのうち、1.1兆円の積立金収入を除いた23.6兆円の半額の11.8兆円が国庫負担として一般会計から支払われています*2

2. 消費税方式で必要な税率

 老齢年金勘定収入のうち、積立金収入と国庫負担金を除いた11.8兆円を消費税負担とすると、約6%の消費税増税が必要です(消費税1%あたり2兆円の税収増を仮定)。

 なお、消費税を年金目的税として年金のみに使用する場合では、約12%の消費税が必要となります(2019年度予算では、10%の消費税で19.4兆円がある一方、年金への国庫支出は11.8兆円です。この差額の約7.6兆円は、消費税の年金目的税化によって歳入欠損となります)。

 一方、年額約20万円の老齢基礎年金に対応する保険料は不要となります*3

 消費額による損益分岐点は、20万円/消費税率6%=330万円です。つまり、約330万円以下の消費の場合には実質的に減税、それ以上の場合は増税となります。

 また、保険料納付義務がない20歳以下や60歳以降の方は、単純に消費税分だけ増税となります。

20歳~59歳それ以外
消費額330万円以下減税大増税
消費額330万円以上増税大増税

3. 最後に

 現在の老齢基礎年金を保険料方式から消費税方式に変更することで、保険料の未納による無年金となる問題を回避することができます。

 現在の老齢基礎年金給付を基準にすれば、約6%の消費増税で実現できます。

 この制度は、世代間負担ではなく、国民皆負担です。老後世代も負担することになり、現在の老後世代は、現役時代の保険料負担と現在の消費税負担の二重払いになります。このため、過去の負担、もしくは、現在の負担に相当する額を(給付付き税額控除などによって)還付する必要があるかもしれません。還付する場合には、税収不足になりますので、必要な消費税率は6%よりも大きくなります(付録B参照)。

 既に保険料を長期間払い込んでいる人が多いために、二重払いの問題の解消には非常に長い時間がかかります。

 この方式は、大幅な年金制度の変更なので、実現性は乏しいかもしれませんが、このような年金負担の在り方も、一つの考え方ではないかと思います。

(2019/7/26)

付録A. 年金勘定収支の詳細

 2019年度の予算ベースの年金特別会計の年金勘定収支の詳細は、以下の通りです*4

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付録B. 二重支払問題

 現在、20歳以上の方は、基本的にはこれまでに保険料を納付しています。このため、現在の年金支払を保険料方式から消費税方式に切り替えた場合には、現行制度のもとで、受給資格を得るために支払った保険料と、現在の年金保険税(消費税)の二つの支払いを重複して行うことになってしまいます。

支払免除、あるいは、支払額還付

 この二重支払の問題を解決するためには、消費税方式による年金保険税を免除するか、過去の支払い額を還付する必要があるでしょう。

  • 年金保険税を免除する
    既に年金受給資格があると考え、年金保険税の支払を免除する。実際には、二つの方法が考えられます。
    • ① 見做し金還付
       年金保険税に相当する消費税額のみなし額を還付します。現在で言えば、年20万円をみなし額として還付します。将来、年金保険税が高くなれば、みなし額も増額します。
    • ② 軽減税率適用
       年金保険税に相当する消費税率(例えば、6%)だけ、消費税の税率を軽減します。年金保険税が上昇すれば、軽減する税率も大きくします*5
  • 過去に支払った保険料を還付する
     保険料支払いの期間に相当する期間の保険料を還付します。この場合、将来、年金保険税が上昇しても、還付額を増加させません。 例えば、30年間保険料を支払っていたならば、65歳から95歳までは、保険料を還付します。制度変更により、5年しか保険料を支払っていない25歳の人の場合には、40年後の65歳から70歳の間だけ還付します。還付額の決め方には次の二つの考え方があるでしょう。
    • ③ 現在の保険料を基準に還付する。
    • ④ 過去の支払い額を現在価値に置き換えて、還付金額を決める。
       つまり、過去の支払いについてはインフレ率を考慮して現在価値に置き換えて、還付金額を計算します。過去の支払いについては、現在よりも保険料は低かったので、還付額は③の額よりも、少なくなります。

 個人的には、④が最も合理的で不公平感が少ない方法と思いますが、高齢者の負担は重くなります。

 還付金の支払いを高齢になってから打ち切ると、生活が困る場合もあるでしょうから、還付金を原資として終身化する必要があるかもしれません。

 また、制度変更による還付金の支払い打ち切りは、45年後に対象者全員に同時に発生します。終身化すれば、保険料を支払った最後の世代になるにつれて、保険料の支払期間が短く、その世代の総還付額は減っていきます。例えば、還付期間(還付時からの平均余命)を20年とすると、1年だけ保険料を支払った世代は、1/20だけの還付、2年なら2/20の還付と言った具合になります。

 ここでの想定は、65歳になってから、過去の保険料支払いを還付することを想定していますが、それ以前の年齢であっても、還付を行うことは可能です。二重支払問題を長引かせないためには、早い段階から還付を開始した方がよいかもしれません。

還付に対する増税率

 支払免除や支払額還付を行えば、必要な税収が減少します。このため、消費税率を上げる必要があります。

 ①と③の方法での還付金額は、現在時点では年20万円になります(将来的には変わります)。この場合、消費増税の税率は、以下に示すように、9%となります。


\begin{eqnarray}
 年金支給額と還付金の総額① & = & \frac{78+20}{78}\times \mbox{24.7兆円(78万円の年金の支給総額)}\\
 消費増税率 & = & \frac{\mbox{総額① - (国庫負担金) - (積立金運用益) }}{\mbox{1%当りのの消費税収}}\\
& = & \frac{\mbox{31.0兆円 - 11.8兆円 - 1.1兆円}}{\mbox{2兆円}} \\
& = & 9\% \\ 
\end{eqnarray}

 なお、この税率は、人口動態や消費額の変動等により変わります。

*1:この制度を導入すれば、直ちに無年金者がいなくなるというわけではありません。消費税支払いを年金保険料支払いとみなすことで、未納者がいなくなり、将来的には無年金者がいなくなるということです。

*2:厚生労働省, 「基礎年金国庫負担割合2分の1の実現について」

*3:国民年金の保険料は、月額16,410円(年額196,920円、前納割引制度を利用すれば、最大割引で年額189,820円)です。厚生年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の保険料が一括で徴収され、明確な区別はされていませんが、国民年金と同程度の負担となるように保険料が決められていると思います。

*4:厚生労働省, 「年金特別会計」

*5:軽減税率を適用する方法は、マイナンバーカードで本人確認・軽減税率適用者をしたとしても、他人の購入を肩代わりするなどの脱税方法が残ります。この脱税方法を考えると、実施は難しいかもしれません。