ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

非課税枠付き預金課税と消費減税を同時実施した場合の損益分岐点

 非課税枠付き預金課税と消費減税の同時実施は、消費に対するペナルティを貯蓄に対するペナルティに転換するもので、消費を喚起する税制改革です。

 今回は、この税制を実施したときの、家計における増税と減税が相殺する損益分岐点について計算しました。

1. 損益分岐点の計算方法

 世帯人数をn、非課税枠をF、預金残高をD、預金課税率をp、預金課税額をS、世帯の消費額をC、消費税の減税率をr、消費減税額をTとします。このとき、世帯の預金課税額Sと消費減税額Tはそれぞれ次の通りです。

  • 世帯の預金課税額S
 
S=
\left\{
\begin{array}{ll}
p~(D-nF)  &~~ ( D > nFのとき ) \\ 
0             &~~(それ以外(非課税枠内)) \\ 
\end{array} 
\right.
  • 世帯の消費減税額T

T= rC
  • 増減税額 S-T


S-T = \left\{\begin{array}{ll}
p~(D-nF) - rC & ~~ ( D>nFのとき)\\
-rC  & ~~ (それ以外(非課税枠内))
\end{array}
\right.

 S<Tならば、減税です。課税額Sと減税額Tが同じになる損益分岐点は、預金残高や消費支出他の6つのパラメータによって変わります。但し、世帯の預金残高が非課税枠内であれば、他の条件によらず、常に減税となります。

2. パラメータの想定値

 世帯の消費額Cに対する増減税額や預金残高の損益分岐点などのグラフを作成しました。損益分岐のシミュレーションに当っての6つのパラメータについて説明します。

2.1 預金残高D

  • 預金残高D

 預金残高Dに対する損益分岐点は、次式となります。

 \displaystyle
D=\frac{r}{p}C+nF

 この式を使って、消費に対する預金残高の損益分岐点の計算を行いました。

2.2 預金課税率pと消費減税率r

 預金課税率pを0.5%とした場合、概算で 消費税換算で2%程度の税収が得られると見積もっています(後日、掲載予定)。見積もり誤差等も考慮して、計算範囲としては、1.0%~3.0%で計算しました。

  • 預金課税率p=0.5%
  • 消費減税率r= 1.0%, 1.5%, 2.0%, 2.5%, 3.0%

 r/pの比率が同じ場合には、預金残高Dに対する損益分岐点は変わりませんので、預金課金率p=0.5%の場合のみを計算します。預金課税率pが2倍になれば、増税に相当する減税の消費減税率rも2倍になります。

2.3 世帯人数n

  • 世帯人数 n=1~4名

 世帯人数を一つだけ計算する場合には、n=2名の場合について計算しました。

2.4 世帯の消費額C

  • C=0~1,000万円

(消費減税率r)/(預金課税率p)の比に消費額Cを乗じた金額だけ損益分岐点が大きくなります。p=0.5%、r=2.0%ではr/p=4となりますので、消費額Cの4倍に比例して、預金残高の損益分岐点が大きくなります。つまり、消費が多い世帯ほど、大きな額の預金をしていても、損にはなりません。逆に預金が大いにも関わらず、消費が少ない場合には、損をすることになります。お金を持っている人ほど、消費しないと損になるというわけです。

2.5 非課税枠F

  • 非課税枠F = 350万円

 (世帯人数n)×(非課税枠)が世帯の非課税枠となり、預金残高の損益分岐点が大きい方にシフトします。

 非課税枠の350万円は、現在の「マル優」(障害者等の少額預金の利子所得等の非課税制度)の非課税枠と同一にしています。昔は、全国民に一律にあったマル優枠の復活です*1

3. 損益分岐点の計算結果

 消費税額に対する増減税額、預金残高に対する増減税額、消費額に対する現預金残高の損益分岐点についてグラフにしました。

預金残高に対する増減税額

 消費額が200万円から600万円の場合の預金残高に対する増減税額のグラフです。増減税額0円よりも下で減税、上で増税となります。

 あまり預金を持っていなければ、消費が少なくても、減税になります。預金が多ければ、多いほど増税になることが分かると思います。つまり、この税改正は、貯蓄が少ない人には減税、富裕層には増税となります。

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消費額に対する増減税額

 預金課税0.5%、消費減税率2%、非課税枠350万円/人、世帯人数2名の条件で、預金残高を非課税枠内(700万円以下)、1,000万円~5,000万円の場合の消費額に対する増減税額をグラフにしました。

 線の右肩下がりは、消費をすればするほど、減税の恩恵を受けらることを表しています。消費税単独で減税を大なった場合には富裕層が、より多くの恩恵を受けますが、ここでも同様に消費が多いほど、減税額が多くなります。しかし、預金課税による増税があるために、富裕層であればあるほど恩恵を受けることは難しくなります。

 非課税枠700万円以内の預金しか持たない場合には、消費減税の恩恵をそのまま受けられます。預金残高2,000万円で消費支出が300万円でも、5,000円の増税にしかなっていません。一方、預金残高5,000万円のときのように貯蓄が多いと、消費によって減税幅は大きくできますが、なかなか得をするまでにはなりません。つまり、預金残高が多い人ほど、より多く消費しないと損となります。

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消費額に対する預金残高の損益分岐点 (世帯人数)

 世帯人数を1~4人とした場合の消費額に対する預金残高の損益分岐点のグラフです。直線よりも下の領域の消費額・預金残高の世帯であれば、この税制を適用することにより、得となります。

 世帯人数が多ければ多いほど、非課税枠が広がります。消費額が0円のときの縦軸の預金残高の値が預金残高の非課税枠を表しています。例えば、子供がいる世帯、扶養家族が多い世帯は非課税枠が拡大し、優遇されます。

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消費額に対する預金残高の損益分岐点 (消費減税率)

 消費減税率を1%~3%の場合の消費額に対する預金残高の損益分岐点のグラフです。消費税の減税幅が小さくなると、得をする預金残高の条件が厳しくなります。

 しかし、消費減税率1%の場合であっても、多くの世帯、特に若い世代では、減税の恩恵を受けられると思います。

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モデルケース

 いま想定しているのは、預金課税率p=0.5%、消費減税率2%です。この場合のモデルケースについて見てみます。

  • 非課税世帯
     1~4名で、それぞれ350万円、700万円、1050万円、1400万円までの預金が非課税となります。預金課税はありませんので、消費減税の恩恵を最大限で得られます。消費額200万円であれば4万円、300万円であれば6万円、400万円であれば8万円の減税です。預金が少ない人は、増税はなく、減税のみです。
  • 単身世帯
     非課税枠は、350万円。消費額が200万円の単身世帯なら預金残高が1,150万円以下、消費額400万円であれば預金残高1,950万円以下で減税です。
  • 4人世帯
     非課税枠は、1,400万円。例えば、子供二人・夫婦世帯の子育て世帯なら、貯蓄ができない時期なので、多くの世帯で非課税となります。そうでなくとも、消費額400万円でも預金残高が3000万円以下であれば、この税制を適用すると、得をします。
  • 2人世帯
     非課税枠は、700万円。共働き夫婦世帯や老後世代では、非課税枠を超える貯蓄となることも多いかと思いますが、消費額300万円なら、1,900万円までなら、トータル減税です。それ以上となると、増税となりますので、預金ではなく、他の金融商品に投資して節税する必要があるでしょう。リスクを好まず、節税をしたい方は、公社債投信や国債によって運用することになると思います。
  • 富裕層
     預金残高が多くて、消費しない富裕層には増税です。預金残高が5,000万円あって、300万円しか消費しない二人世帯であると、損失となります。このときの増税額は、15.5万円となります。5,000万円の預金者の損益分岐点は、消費額1,075万円となります。老後資金として、多額の預金を保有している場合には厳しいハードルかもしれません。

\begin{eqnarray}
増税額  & = & S-T \\
      & = & p(D-nF)-rC \\
      & = & 0.005\times (5,000  - 2 \times 350 ) - 0.02 \times 300 \\
      & = & 21.5万円 - 6万円\\
      & = & 15.5万円
\end{eqnarray}
  • 超富裕層
     次の額の消費をすれば、超富裕層でも減税となりますが、現状の想定ではp/r=1/4ですので、預金の1/4を消費することになり、減税となるまでの消費はないと思います。従って、超富裕層は増税です。
     \displaystyle
    C = \frac{p}{r}(D-nF)
    
     10億円の預金には約500万円、100億円の預金には約5,000万円の課税となります。節税のためにどれほどの資金が預金から流出するか、動向に注意する必要があります。
  • 法人
     法人には非課税枠を想定していません。また、企業の場合には決算で現預金額が確定しますので、現金課税も加えて現預金課税でも構いません。但し、銀行経由の徴収によって毎月課税を実施する場合には対応できないので、その場合は、現金課税の実施は難しいかもしれません。
     貯蓄過剰な企業にはペナルティで、預金を有効に使うような圧力となり、設備投資や配当が促進されます。企業の場合、金融商品を購入するというような節税行動はあまりとらないと考えています。
     但し、企業に対する非課税枠を設定する場合には、超富裕層のタックスヘイブンにならないように注意する必要があります。また、家族経営の会社に非課税枠を設定すると、家計と会社の二つに非課税枠が設定されることになります。

4. 最後に

 非課税枠付き預金課税を導入し、消費減税を行う場合の損益分岐点についてシミュレーションしました。現状想定している預金課税率0.5%、消費減税率2.0%では、過半の世帯で減税の恩恵を受けられると思います。一般庶民に恩恵のある良い税制ではないかと思います。

 一方、多額の預金を持つ方は、増税となります。しかし、現在構想している預金課税は銀行預金(と証券会社の預り金)のみへの課税ですので、株式・投資信託などの金融投資で節税することができます*2。金融投資への誘導は、この課税の目的の一つです*3

 節税に向かう預金量は不明ですが、仮に100兆円の預金流出があっても、0.5兆円の減収に過ぎません。この税制の導入により、消費・投資は活性化されますので、他の税収の増加で十分カバーできる範囲にあると考えられます。

(2019/6/6) 

関連記事

*1:利子課税を廃止して、預金課税に一本化することも検討課題です。利子課税は税率20%ですので、例えば、預金利回りが5%であれば1%の預金課税、利回り2.5%なら0.5%の預金課税と同じです。利子課税は、利子に対する固定税率、元本に対しては変動税率になっています。預金課税は、利子課税の廃止で、元本に対する変動税率から固定税率への変更を意味します。

*2:株式購入では、全体としては預金は減りません。それは買い方の反対側には、必ず売り方がいるからです。詳しくは、こちら

*3:株式市場への資金流入で株高となり、家計全体での金融資産は大きく膨らむことになります。
 消費が激しい米国でも家計の金融資産が大きくなる理由の一つです。
 理想的な経済成長のもとで長期で見れば、株式はインフレに連動し、さらに配当が得られます。一方、預金の元本は、利回りがインフレに連動し、その結果元本もインフレに連動しますが、配当分が得られません。配当を利息に対応するものと見做せば、預金の元本がインフレに連動しないとも言えます。さらに、株価の値上り率はインフレ率よりも大きく、預金利息は配当よりも低い場合が多いです(但し、日本のように株価が伸びない国もあります)。詳細は、こちらの記事