ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

相続税対策となる永久国債

 最近、日銀保有国債を永久国債化するという提案をしている政党がありますが*1, *2、あまりにも無責任です。

 中央銀行に多額の国債を買わせてはいけません。既に日本では、日銀の多額の国債保有によって、インフレ時に金融引き締めする方法がなくなっています。金融引締めを行うためには、日銀当座預金に付利して、金利を引き上げれば、日銀はすぐに債務超過に陥ります。

 中央銀行や民間銀行が、国債を購入すると、マネーストックが増加しますが、そのマネーストックが多額になることを避けるために、戦時中でも、国民に国債を推奨していました。いまは、マネーストックを増やしても、ほとんどがタンス預金化するので、インフレになりませんが、いざ、インフレになったときには収拾が付かなくなるでしょう。

 そこで、本稿では、国民に購入してもらえるような永久国債について考えました。相続税対策となる永久国債です。

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1. 節税対策としての永久国債

 償還されない無利子の国債はゴミです。資産価値はありません。有利子であれば、少しは価値がありますが、非常に低金利であるならば、資産価値としては低いですが、一応は保有価値はります。

 低金利でも購入する魅力がある永久国債について提案します。ズバリ節税対策のための国債です。

 この永久国債は、次のメリットがあります。

 ① 永久国債は、相続税の課税対象から除外する。
 ② 永久国債は、相続税の納税のために物納できる(但し、上限あり)。

2. 相続税の課税対象から除外

 例えば、全財産を永久国債にすれば、課税対象額はゼロ。納税することなく、すべての財産を次世代に引き継ぐことができます。でも、現金化できるわけでもないので、わずかばかりの利子を貰うだけでは、保有資産としては魅力ありません。税金を支払ってでも、普通の資産を残した方が良いでしょう。

 とはいえ、100億円で金利年1%の永久国債、毎年1億円の金利が得られるなら、間違って魅力的に感じる人もいるかもしれません。100億円を貰うためには100年かかるのですけどね。少なくとも、子供の世代では元本相当額は使えない。その間にインフレがあれば、元本の実質価値も減っていく。そこのところを誤魔化すために、永久国債ではなく「償還期限の定めのない国債」にすると、いつかは償還されるのかなと、誤解する人も増えるでしょう。ほとんど国家詐欺ですが(笑)。

3. 物納を可能にする

 では、相続税の納税のために物納できたら、どうでしょうか?

 例えば、全財産100億円として、税率50%、全財産の1/3の永久国債を購入したとします。

  • 課税対象額は、全財産の2/3 (66億円)
  • 納税額は、課税対象額の50%の1/3 (33億円)
  • 納税後財産は、全資産の2/3(67億円)

つまり、

  • 節税対策なし:納税額50億円、納税後財産50億円
  • 節税対策あり:納税額33億円、納税後財産67億円

 実に17億円も納税額を少なくすることができます。

 さすがに、これは財務省が許さないです。

 物納で永久国債が魅力的になるのは、永久国債が現金化(償還)されることと等価だからです。つまり、永久国債でなくなる抜け道を作っていることになります。

4. 物納額に上限を付ける

4.1 物納上限値

 物納可能にすると、あまりにも魅力的な金融商品になりすぎるので、物納に上限を設けることとします。

 全財産を x、国債保有比率を y、税率を z とすると、

  • 節税対策しない場合、納税後資産は、x-xz = x(1-z)
  • 節税対策する場合
    • 保有国債残高は、xy
    • 納税額は、x(1-y)z
    • 納税後資産は、x-x(1-y)z = x(1-z)+xyz

 つまり、節税額は xyz となります。この節税分は永久国債となるように、物納額の上限を設けるとします。物納した後でも、節税額以上の国債保有することを条件とすると、物納額 a は、次の条件式を満たす必要があります。

 xy-a ≥ xyz

 つまり、

 a ≤ xy(1-z)

 物納の上限値は a = xy(1-z) となります。

 a=xy(1-z) のとき、納税後保有国債と節税額が等しくなります。つまり、節税メリットは永久国債保有だけになります。

国債保有比率 y=1/3、税率 z=1/2 の場合

 例えば、先の事例は、国債保有比率 y=1/3、税率 z=1/2 ですが、このときは次のようになります。

  • 物納上限額は、a=xy(1-z) = x(1/3)(1-1/2) = x/6 (17億円)
  • 納税額は、xz(1-y) = x(1/2)(1-1/3)=x/3 (33億円)
    • 納税内訳は、現金納税:x/6 (17億円)、国債物納:x/6 (17億円)
  • 納税後資産は、現金等:x/2 (50億円)、国債:x/6 (17億円)

 つまり、納税後資産は、50億円の財産に加えて、17億円の国債が残ります。この17億円の国債が節税効果になります。

 17億円の国債といっても償還されない国債なので資産価値としては低いですが、節税対策しないよりはお得です。

 国債の金利にもよりますが、このぐらいの節税効果なら、財務省も了承するでしょう。

4.2 最適な国債保有比率

 もっともお得な国債保有比率 y はどのようなものでしょうか?

 現金納税しない条件のもと、もっともお得な国債保有比率 y を求めたいと思います。

 物納上限値 xy(1-z) と納税額が xz(1-y) が等しくなる国債保有比率 y のときに、納税後の国債を含めた財産が最大となります。

 xy(1-z) = zx(1-y)

つまり、

 y=z

 税率と同じ割合だけ、国債を保有したときが、最もお得です。

 永久国債の金利を考慮すると、最適値は変わります。いろいろと面倒なので略。

y=z=1/2の場合

  • 物納上限額は、a=xy(1-z)=x(1/2)(1-1/2)=x/4 (25億円)
  • 納税額は、xz(1-y) = x(1/2)(1-1/2)=x/4 (25億円)
    • 納税内訳は、国債物納:x/4 (25億円)、現金納税:0
  • 納税後資産は、現金等:x/2 (50億円)、国債:x/4(25億円)

 節税対策によって、25億円の国債が財産として加わります。

4.3 物納上限を言葉で表す

 a < xy(1-z) の条件を言葉で表すと、例えば、次のようになります。

 「保有国債残高に税率をかけた額(xyz)を保有国債残高(xy)から減じた額(xy-xyz)を上限に物納を可能とする」

 何を言っているか分からない(笑)。税理士に相談しましょう。

5. 増税

 さて、これだけだと、国からすれば、税収変わらずで、永久国債の負債を抱えただけになります。

例えば、y=z=1/2の場合

  • 節税対策なし:収入50億円
  • 節税対策あり:収入50億円、国の負債(永久国債):25億円

 このため、国の収入を増やすためには増税をセットで導入する必要があります。

5.1 税率を50%から75%にあげた場合

 例えば、x=100億円、y=z=3/4 (相続税率75%)の場合、

  • 節税対策なし
    • 国側 :収入75億円 (内訳:相続税75億円)、負債:0
    • 相続側:支出75億円 (内訳:相続税75億円)、納税後資産:現金等25億円
  • 節税対策あり:
    • 国側 :収入75億円 (内訳:国債売却75億円)、負債:国債18.75億円
    • 相続側:支出75億円 (内訳:国債購入75億円)、納税後資産:現金等25億円+国債18.75億円=43.75億円)
      • 国債購入:xy=3x/4 (75億円)
      • 物納上限=x(3/4)*(1-3/4)=3x/16 (18.75億円)
      • 納税額=x(3/4)(1-3/4)=3x/16 (18.75億円)
        • 納税内訳:国債現物3x/16 (18.75億円)、現金納税0
      • 納税後資産は、現金等:x/4 (25億円)、国債:3x/16 (18.75億円)、計7x/16 (43.75億円) *増税なし(y=1/2)、節税なし:
    • 国側:収入50億円
    • 相続側:納税50億円、納税後資産50億円

 この場合、相続税率 50% から 75% への増税により、国の収入は25億円増、負債は18.75億円増となり、相続側は、納税後資産は50億円から43.75億円への6.25億円減少に留まります。

5.2 納税後も「資産」が減らない国債保有比率

 増税前の納税後資産と、増税後の納税後の国債を含めた資産が、同じとなる国債保有比率を求めることにします。

増税前の税率の税率を z、増税後の税率を z'、増税後の国債保有比率を y' とします。納税後資産は次のようになります。

 増税前の節税対策がない場合の納税後資産:x(1-z)
 増税後の節税対策がある場合の納税後資産:x(1-z')+xy'z'

 これからが等しくなる国債保有比率 y' を求めると、


\begin{eqnarray}
x(1-z) & = & x(1-z') + xy'z' \\
y' & = & \frac{z'-z}{z'} \\
\end{eqnarray}

 相続税の税率を50%から100%にしたときに、納税後資産が変わらないように国債購入をしたときのシミュレーションを図に示します。

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6. 最後に

 多少の金利がついても永久国債などは全く魅力のない金融商品ですが、節税対策になる税制を付け加えることで、魅力的な金融商品に変貌します。

 既に米国では、テーパリングが議論されていますが、いまのままでは日本は国債の買い手がなく無理でしょう。国の資金調達のために日銀は国債を買い続けることになります。

 このような事態を避けるために、節税対策となる国債などを発行して、国債の買い手を開拓する努力をすることが、国には求められるのではないでしょうか?

 なお、永久国債を日銀に買わせろというのは論外ですが、節税対策国債の発行で買い手ができるから、さらに国債を発行しようというのも論外です。悪しからず。

(2021/11/5)