これまでの記事で、オリジナルのドーマーの定理と米原・荒の条件について証明しましたが、ドーマーの定理では、成長率がプラスであれば、金利の大小に依らず、国債残高の対GDP比は収束します。このとき、成長率と金利と基礎的財政収支の間には、一定の関係があります。
今回は、この関係について解説したいと思います。
1. 収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係
オリジナルのドーマーの定理によれば、毎年の国債発行がGDPの一定割合で、GDPがプラス成長するならば、国債残高の対GDP比は一定の値に収束します。
収束したときの基礎的財政収支について、次の命題が成立します。これは、収束時における基礎的財政収支(プライマリーバランス)が、金利と成長率の大小によって、どのようになるかを示すものです。
収束時の基礎的財政収支の成長率・金利の関係
GDPがプラス成長のときに、毎年の国債発行がGDPの一定割合となるように基礎的財政収支を調整すれば、収束段階では次の状態となる。
成長率 > 金利ならば、基礎的財政収支は赤字
成長率 = 金利ならば、基礎的財政収支は均衡
成長率 < 金利ならば、基礎的財政収支は黒字
成長率と金利が同じならば、収束するに従って、PB均衡するように予算編成しなければならないという意味です。また、成長率が金利より高ければPB赤字、成長率が金利より低ければPB黒字での予算編成となります。
2. 証明
オリジナルのドーマーの定理では、国債残高 、GDP は次のように表されます。
ここで、 は毎年の国債発行額、 は国債発行額のGDPに対する比率、 はGDP成長率で正の値です。国債発行額 は、利払い と基礎的財政収支の赤字 に分離して書き表すこともできます。
さて、 と における対GDP比の国債残高の差は、次のようになります。
これは、 で零に収束しますので、
ここで、ドーマーの定理*1から得られるを代入しています。
従って、収束時には、
- 成長率 > 金利 で、基礎的財政収支 は赤字
- 成長率 = 金利 で、基礎的財政収支 はゼロ
- 成長率 < 金利 で、基礎的財政収支 は黒字
3. 米原・荒の定理に適用した場合
この定理で得られた収束時点での基礎的財政収支の対GDP比を米原・荒の定理*2における基礎的財政収支の対GDP比率とする場合について考えます。
3.1 成長率>金利の場合
>のときに、基礎的財政収支の対GDP比率 を
として、次式の国債発行額 で毎年国債を発行するとします。
このとき、対GDP比の国債残高 は、米原・荒の定理より、次式に収束します。
なお、国債発行額の対GDP比 は に収束します。
3.2 成長率<金利の場合
成長率 <金利 の場合、基礎的財政収支 が であっても、対GDP比の国債残高は、発散します。
これは、次式の対GDP比国債残高は、の場合を除いて、 あるいは に発散するためです。
但し、例外的にの場合、 に収束します。
ドーマーの定理との違いがでるのは、ドーマー定理の場合には、国債発行額の対GDPの は一定であるのに対して、米原・荒の定理では、 が一定で、 は一定ではないからです。
3.3 成長率=金利の場合
成長率 = 金利 のとき、はゼロとなり、基礎的財政収支はゼロです。
また、対GDP比国債残高の収束値は、 となります。この場合も、 を一定としたときの収束値 とは異なる値に収束します。
4. 具体例
例えば、成長率 =2%、=1%であれば、収束時の国債発行額の対GDP比率 =6%がなるように、基礎的財政収支が対GDP比 =3%の赤字とすれば、毎年の対GDP比の国債発行額は6%、対GDP比の国債残高は=300%に収束し、安定的に推移します。
なお、収束時の国債発行額6%の内訳は、3%は利払い費、3%がPB赤字分となります。
仮に、金融抑圧によって金利 =0%にすることができれば、基礎的財政収支6%の赤字を毎年出せることになります。このとき、基礎的財政収支が赤字のままでも、国債残高は300%で安定的に推移します。
5. 最後に
ドーマーの定理における収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係について証明しました。今回、証明した命題は、次の通りです。
収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係
GDPがプラス成長のときに、毎年の国債発行がGDPの一定割合となるように基礎的財政収支を調整すれば、収束段階では次の状態となる。
成長率 > 金利ならば、基礎的財政収支は赤字
成長率 = 金利ならば、基礎的財政収支は均衡
成長率 < 金利ならば、基礎的財政収支は黒字
(2019/8/30)