ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ドーマーの定理の証明(3):収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係

f:id:toranosuke_blog:20190830200634j:plain:w400

 これまでの記事で、オリジナルのドーマーの定理米原・荒の条件について証明しましたが、ドーマーの定理では、成長率がプラスであれば、金利の大小に依らず、国債残高の対GDP比は収束します。このとき、成長率と金利と基礎的財政収支の間には、一定の関係があります。

 今回は、この関係について解説したいと思います。

1. 収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係

 オリジナルのドーマーの定理によれば、毎年の国債発行がGDPの一定割合で、GDPがプラス成長するならば、国債残高の対GDP比は一定の値に収束します。

 収束したときの基礎的財政収支について、次の命題が成立します。これは、収束時における基礎的財政収支(プライマリーバランス)が、金利と成長率の大小によって、どのようになるかを示すものです。

収束時の基礎的財政収支の成長率・金利の関係
 GDPがプラス成長のときに、毎年の国債発行がGDPの一定割合となるように基礎的財政収支を調整すれば、収束段階では次の状態となる。

 成長率 > 金利ならば、基礎的財政収支は赤字
 成長率 = 金利ならば、基礎的財政収支は均衡
 成長率 < 金利ならば、基礎的財政収支は黒字

 成長率と金利が同じならば、収束するに従って、PB均衡するように予算編成しなければならないという意味です。また、成長率が金利より高ければPB赤字、成長率が金利より低ければPB黒字での予算編成となります。 

2. 証明

 オリジナルのドーマーの定理では、国債残高 B_t、GDP G_t は次のように表されます。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
b_t & = & \alpha G_t = rB_t + d_t^{PB}\\
B_t & = & B_{t-1} + b_{t-1} \\
G_t & = & (1+g) G_{t-1} \\ 
\end{eqnarray}

 ここで、b_t は毎年の国債発行額、\alpha は国債発行額のGDPに対する比率、g はGDP成長率で正の値です。国債発行額 b_t は、利払い rB_t と基礎的財政収支の赤字 d_t^{PB} に分離して書き表すこともできます。

 さて、tt+1 における対GDP比の国債残高の差は、次のようになります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{B_{t+1}}{G_{t+1}} - \frac{B_t}{G_t} & = & \frac{B_t+b_t}{(1+g)G_t} - \frac{B_t}{G_t} \\
& = & \frac{B_t + rB_t + d_t^{PB}}{(1+g)G_t} -  \frac{B_t}{G_t} \\
& = & \frac{(r-g)B_t + d_t^{PB}}{(1+g)G_t} 
\end{eqnarray}

 これは、t\rightarrow\infty で零に収束しますので、

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\lim_{t\rightarrow\infty}\frac{d_t^{PB}}{G_t} & = & (g-r)\lim_{t\rightarrow\infty}\frac{B_t}{G_t}  = \alpha(1-\frac{r}{g})\\
\end{eqnarray}

 ここで、ドーマーの定理*1から得られる\displaystyle \lim_{t\rightarrow\infty}\frac{B_t}{G_t}=\frac{\alpha}{g}を代入しています。

 従って、収束時には、

  • 成長率 g > 金利 rで、基礎的財政収支 d_t^{PB}は赤字
  • 成長率 g = 金利 rで、基礎的財政収支 d_t^{PB}はゼロ
  • 成長率 g < 金利 rで、基礎的財政収支 d_t^{PB}は黒字

3. 米原・荒の定理に適用した場合

 この定理で得られた収束時点での基礎的財政収支の対GDP比を米原・荒の定理*2における基礎的財政収支の対GDP比率とする場合について考えます。

3.1 成長率>金利の場合

 grのときに、基礎的財政収支の対GDP比率 \beta

 \displaystyle
\beta \equiv \frac{d_t^{PB}}{G_t} = \alpha (1-\frac{r}{g})

として、次式の国債発行額 b_t で毎年国債を発行するとします。


b_t = rB_t + \beta G_t

 このとき、対GDP比の国債残高 \frac{B_t}{G_t} は、米原・荒の定理より、次式に収束します。

\displaystyle
\lim_{t\rightarrow\infty}\frac{B_t}{G_t} = \frac{\beta}{g-r} = \frac{\alpha\left(1-\frac{r}{g}\right)}{g-r}= \frac{\alpha}{g}

 なお、国債発行額の対GDP比 \frac{b_t}{G_t}\alpha に収束します。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\lim_{t\rightarrow\infty} \frac{b_t}{G_t} & = & 
\lim_{t\rightarrow\infty} \frac{rB_t+\beta G_t}{G_t} = 
 r\lim_{t\rightarrow\infty}\frac{B_t}{G_t} + \beta = r\frac{\alpha}{g} + \alpha\left(1-\frac{r}{g}\right) = \alpha\\
\end{eqnarray}

3.2 成長率<金利の場合

 成長率 g <金利 r の場合、基礎的財政収支 d_t^{PB}\alpha(1-\frac{r}{g})G_t であっても、対GDP比の国債残高は、発散します。

 これは、次式の対GDP比国債残高は、\alpha=g\frac{B_0}{G_0}の場合を除いて、+\infty あるいは -\infty に発散するためです。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\frac{B_t}{G_t} & = & \left(\frac{B_0}{G_0} - \frac{\beta}{g-r}\right)\left(\frac{1+r}{1+g}\right)^t + \frac{\beta}{g-r} \\
& = & \left(\frac{B_0}{G_0}-\frac{\alpha}{g}\right)\left(\frac{1+r}{1+g}\right)^t + \frac{\alpha}{g}
\end{eqnarray}

 但し、例外的に\frac{B_0}{G_0}=\frac{\alpha}{g}の場合、\frac{B_0}{G_0} に収束します。

 ドーマーの定理との違いがでるのは、ドーマー定理の場合には、国債発行額の対GDPの \alpha は一定であるのに対して、米原・荒の定理では、\beta が一定で、\alpha は一定ではないからです。

3.3 成長率=金利の場合

 成長率 g = 金利 rのとき、\betaはゼロとなり、基礎的財政収支はゼロです。

 また、対GDP比国債残高の収束値は、\frac{B_0}{G_0} となります。この場合も、\alpha を一定としたときの収束値 \frac{\alpha}{g} とは異なる値に収束します。

4. 具体例

 例えば、成長率 g=2%、r=1%であれば、収束時の国債発行額の対GDP比率 \alpha=6%がなるように、基礎的財政収支が対GDP比\beta=\alpha(1-\frac{r}{g}) =3%の赤字とすれば、毎年の対GDP比の国債発行額は6%、対GDP比の国債残高は\frac{\alpha}{g}=300%に収束し、安定的に推移します。

 なお、収束時の国債発行額6%の内訳は、3%は利払い費、3%がPB赤字分となります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
b_t & = & rB_t + \beta G_t \\
& = & r \frac{\alpha}{g} G_t + \beta G_t\\
& = & ( 0.01 \times \frac{0.06}{0.02} + 0.03 ) G_t \\
& = & ( 0.03 + 0.03 ) G_t \\
\end{eqnarray}

 仮に、金融抑圧によって金利 r=0%にすることができれば、基礎的財政収支6%の赤字を毎年出せることになります。このとき、基礎的財政収支が赤字のままでも、国債残高は300%で安定的に推移します。

5. 最後に

 ドーマーの定理における収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係について証明しました。今回、証明した命題は、次の通りです。

収束時の基礎的財政収支と成長率・金利の関係
 GDPがプラス成長のときに、毎年の国債発行がGDPの一定割合となるように基礎的財政収支を調整すれば、収束段階では次の状態となる。

 成長率 > 金利ならば、基礎的財政収支は赤字
 成長率 = 金利ならば、基礎的財政収支は均衡
 成長率 < 金利ならば、基礎的財政収支は黒字

(2019/8/30)

関連記事