ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

株価水準の決定方程式

 株式を購入して、代金を支払っても、お金の総量は減りません。なぜなら、買い方の反対側には、売り方が存在し、その代金を受け取るからです。

 すると、貨幣量が一定の仮定の下で、株価はどのように決定されるのでしょうか?考えてみました。

1. 株価水準の決定方程式

 株式数をN、株価をPとすると、株価総額Tは、次式となります。


\begin{equation}
T = PN 
\end{equation}

 ここで、株価総額Tと現預金Mの比率がrであるとしましょう。


\begin{equation}\displaystyle
\frac{T}{M} = r
\end{equation}

 従って、株価Pは次のようになります。


\begin{eqnarray}
P & = & \frac{rM}{N}\\
\end{eqnarray}

 この式から、株式比率rを上げれば株価は上がります。逆に、株式市場が冷え込むと、株価Pも下がり、株式比率rも下がります。

 また、この式から、貨幣供給を増やしても株価は上がることが分かります。貨幣供給によって株価が上がることは、経済成長に連動して株価が上がることを意味します(付録A参照)。

 この株価水準の決定方程式は、貨幣数量説のにおける貨幣の捉え方と類似し、フィッシャーの交換方程式の株式市場への適用と解釈することができます (付録B参照)。

2. 資産比率変更時の株価水準

 株式保有と現預金の比率をrからr'に変更したとしましょう。このとき、新しい株価P'は、次となります。

\displaystyle
\begin{eqnarray}
\mbox{現在の株価 } P & = & \frac{rM}{N} \\\\
\mbox{新しい株価 } P' & = & \frac{r'M}{N} \\
\end{eqnarray}

 従って、


\begin{eqnarray}
P' & = & \frac{r'}{r} P
\end{eqnarray}

 これは、株式の保有比率を現在の2倍にすれば、株価が2倍になることを表しています。

3. 日本の家計の株式保有比率

 現在、家計の金融資産に占める現預金と株式(及び投資信託)の比率rは(10.9+4.0)/52.5=0.28に過ぎません*1。一方、米国はr=(38.2+11.8)/13.1 = 3.8、ユーロ圏はr=(19.2+9.6)/33.0=0.87 です。保険・年金で間接保有している株式を含めても、0.5には満たないでしょう。

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家計の金融資産構成の日米欧比較。 文献*1より引用。


 図の金融資産のデータとは若干時期はずれますが、日本のマネーストックM2は1,026兆円*2、米国のマネーサプライM2は14.5兆ドル *3です。マネーストック・マネーサプライに対する家計の金融資産の比を計算すると、日本は1.7倍に対して、米国は5.6倍です。米国が少ない貨幣量で大きな資産を築けているのは、株式によるところが大きいのです。預金での貯蓄であれば、このようにはなりません。

 家計が株式保有比率を高めることで、株価は大幅に上昇すると考えられます。家計の預金約1,000兆円*4の比で50%まで株価保有比率を高める、あるいは、新しく家計が年率約2%のペースで増やしている現預金20兆円の半分が株式市場に投入されるだけで、年6兆円を購入している日銀以上の買い手となることができます。

4. 最後に

 日銀のETF購入はすぐに限界に到達します。家計の預金が株式投資に回ることで、株価が高い水準で維持されます。年金の運用不足も大幅に解消されるでしょう。そしてなにより、株式投資を行っても、家計の預金は減らないのです。

P.S.:ここで述べた株価水準の決定方程式は、既存の方程式かもしれません。ご存知の方は、ご一報頂ければ幸いです。

(2019/6/11)

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付録A. 株式のキャピタルゲインとインカムゲイン

 株価は長期的にみれば、経済成長に連動します。

 これは、株価水準の決定方程式 P = rM/N を見ても分かるでしょう。つまり、経済が成長すれば、貨幣供給は増え、この貨幣Mの増加によって、株価Pが上昇します。

 さて、この株価の上昇は、キャピタルゲインをもたらします。一方、株式配当によってインカムゲインも得れます。これに比較して、預金や (満期保有目的の) 債券はインカムゲインしか得られません。さらに、株式の配当利回りは、(安定成長した企業では) 預金利回りよりも高いことが求められ、多くの場合、実際にそうなっています。

 株式は、経済成長によってキャピタルゲインが得られるとともに、預金・債券よりも利回りのよいインカムゲインを期待できるのです。

 預金・債券よりも、株式によって運用する方が、年金資金のような長期運用を前提とするなら、良いことが分かります。

 但し、あくまでも経済成長が前提です。あまり経済が成長しなかったバブル崩壊後の日本では、この株式運用の旨味を得ることはできませんでした。

付録B. フィッシャーの交換方程式の観点からの解釈

 株価水準の決定方程式と貨幣数量説におけるフィッシャーの方程式には、類似性があります。

 貨幣数量説におけるフィッシャーの交換方程式は、


\begin{eqnarray}
MV & = & PQ \\
 ここで、 & & \\
& M:& 貨幣量 \\
& V: & 貨幣回転率\\
& P:& 物価水準\\
& Q:& 取引量\\
\end{eqnarray}

 一方、株価水準の決定方程式は、変形すると、


\begin{eqnarray}
Mr & = & PN \\
 ここで、 & & \\
& M:& 貨幣量 \\
& r: & 株式比率\\
& P:& 株価水準\\
& N:& 株式数\\
\end{eqnarray}

 フィッシャーの交換方程式はある期間における取引という動的な状態を表す式ですが、株価水準の決定方程式はある保有比率になったときの静的な状態を表す式です。

 フィッシャーの式の取引量Qは、期間当たりの取引の数です。一方、株式決定式では、Nは株式の数です。株式決定式の右辺は(単価)×(数)、フィッシャーの式は(単価)×(数)/(時間)となります。

 左辺の貨幣量Mは同じです。大きな違いは、貨幣回転率Vと株式比率rです。

 rには時間的な概念はありませんが、r=1なら貨幣量Mの貨幣が株購入のために1回使われた、r=2なら2回使われたと考えることができます。つまり、貨幣の回転数です。そして、Mrは、株式購入のために使った貨幣量と言えます。

 rの増加は (俗にいう)株式市場への資金流入、rの減少は株式市場からの資金流出と言い換えることもできるでしょう。

 このように考えると、株価水準の決定方程式は、フィッシャーの交換方程式を株式市場に適用した式と解釈することができます。

付録C. 実際の株式市場との違い

 実際の株価は、景気動向やPERやPBRなど様々な指標を考慮して形成されます。この観点で言えば、これらの基礎的な要素が、株式保有比率rを決めていると考える方が妥当なのかもしれません。しかし、ポートフォリオの一部として株式比率を考えることも多く、必ずしも株式保有比率rが一方的に従属的であるとも言えません。

 ここでは、この株価決定式に関わる現実との違いに絞って述べます。

 株式の多くは、頻繁には売買されないということです。売買されない株式は価格形成には影響を与えません。マネーストックの一部の資金と一部の株式が売買されることで、株価が決定されます。

 株式市場にある資金をM_s、取引される株数をN_sとすれば、ここで決められる株価P_sは、次式となります。

\displaystyle
P_s = \frac{rM_s}{N_s}

 取引される株式が少なければ、その分、小さな資金量の変動でも、株価は大きく変動することになります。

 また、少ない浮動株の取引きによって決定された株価P_sによって、売買されない株式も含めた全体の株式の時価総額が計算されます。

 しかし、一見大きな時価総額であっても、株は売却して実現しなければ、利益は得られません。皆が売却益を一斉に実現しようとすると、株価は値下がりしてしまいます。

 たとえ、株式市場が好調で、時価総額が大きくなっていたとしても、見せかけのものであることを忘れてはいけません。