ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

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【コラム】株式水準の決定方程式と気体の状態方程式

 二つの方程式が並んだ、変なタイトルです。変なこと考えてます。

 株式水準の決定方程式を見て、ふと気体の状態方程式を思い浮かべました。株価Pと気体の状態方程式の圧力pが似ているな、と。株取引の動きは、さながら気体の分子運動と私には見えてきました(笑)。

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wikipediaより


 こんなアナロジーから、株式水準の決定方程式を考えてみました。

1. 株価水準の決定方程式と気体の状態方程式

 株価水準の決定方程式(株価決定式)は、次の通りです。


\begin{eqnarray}
PN & = & Mr \\
 ここで、 & & \\
& P:& 株価水準\\
& N:& 株式数\\
& M:& 貨幣量 \\
& r: & 株式比率\\
\end{eqnarray}

 一方、気体の状態方程式(気体状態式)は、次の通りです。


\begin{eqnarray}
pV & = & nRT \\
 ここで、 & & \\
& p:& 圧力 \\
& V: & 体積\\
& n:& 物質量\\
& R:& 気体定数\\
& T:& 温度\\
\end{eqnarray}

2. 株価決定式と気体状態式の対応

 この二つの式がどのように対応しているように見えるかというと、次の通りです。

株価決定式気体状態式
株価 P (yen/stock)圧力 p (Pa=N/㎡)
株式数 N (stock) 体積 V (L=㎥)
貨幣量 M (yen) 物質量 n (mol)
株式比率 r (無次元量) 気体定数×温度 RT (J/mol)

 単位を適当に付しましたが、気体状態式の左辺の気圧の単位パスカルPaは  N/m ^2、体積の単位は  m ^3、PVの単位は  Nm、つまり、エネルギーの単位のジュール J (=Nm)です。

 一方、右辺は、物質量 (mol)×気体定数(J/(K mol)×温度(K))で、単位はジュールJで、単位系は一致していることが分かります。また、(気体定数 R)×(温度 T)は、単位物質量あたりの分子が持つエネルギーを意味します*1

 気体状態式と株価決定式で表される現象を定性的に言うと、例えば、次のようになります。

  • 体積Vが大きくなれば(株式分割して株式数Nが多くなれば)、
      → 圧力pは低くなる(額面の株価Pは下がる)。
  • 閉じ込める気体の量nが多くなれば(貨幣量Mが多くなれば)、
      → 圧力Pが高くなる(株価Pが上がる)。
  • 温度Tが高くなれば(株式比率rが高くなり市場が過熱すれば)、
      → 圧力pが高くなる(株価Pが高くなる)。

 株価決定式は、気体状態式に類似性があることが分かります。

3. 株式におけるボイルの法則

 ボイルの法則は、株式ではどのように対応するのでしょうか?それは、自社株買いや株式分割における株価の決定則に対応します。

 ボイルの法則は、温度一定Tならば、圧力と体積の積は一定である、という法則です。


pV = 一定

 ここで、体積Vを変更して、V'になるとすれば、圧力p'は次式となります。

\displaystyle
p'  = \frac{pV}{V'}

 圧力・体積を株価P、P'、株式数N、N'に置き換えると、

\displaystyle
P'  = \frac{PN}{N'}

 株式分割によって、株数を2倍の2Nにすれば、株主には新しくN株が与えられ、新しい株価P'は元の株価Pの半額になります。

 自社株買いでは、株式数がN'に減少することで、一株当たりの会社価値が上昇し、株価はP'=PN/N'に上昇することが期待できます(会社価値を利益として説明することが多いです)。

 まさに、株式におけるボイルの法則です。

4. 株式におけるシャルルの法則

 シャルルの法則は、どうでしょうか?

 シャルルの法則における圧力pが一定という仮定は、株式市場では、株価Pが一定という仮定になります。この仮定をおくことは通常できないために、シャルルの法則に直接的に対応する現象は、株式市場には存在しません。

 敢えて言えば、公募増資をしても株価は下がらないと思う会社側の思惑が株式におけるシャルルの法則を前提にしていると言えなくもありません。

 シャルルの法則は、圧力pが一定であれば、体積Vは、温度Tに比例するというものです。


V=\alpha T   (\alpha は比例定数)

これを、株式決定式に対応させると、


N=\beta r   (\beta は比例定数)

 株式比率rは株式市場の過熱に対応しますが、株式市場が活性化している状態では、株式を増資し、株式数Nを増やしても、株価Pは維持できるということが言えれば、株式におけるシャルルの法則が成り立つと言えます。

 しかし、実際には、公募増資は、評価されず下がることが多いので、シャルルの法則が当てはまっているとは言い難いです。

 むしろ、PN=一定のもとでのNの増加と捉えられ(株式の希釈と捉えられて)、株価が下落することの方が多いと思います。シャルルの法則というよりは、ボイルの法則に従っていると言えます。

 しかし、発行する側の思いとしては、株式市場の活況を当て込んで、Nが増えても、株価Pは保てると思って、増資をすると思いますので、株式におけるシャルルの法則への期待があると言えるでしょう。

4. 最後に

 今回の記事では、株式水準の決定方程式を気体の状態方程式とのアナロジーで説明しました。個々の株取引もまた、気体における分子運動のアナロジーで理解することができるかもしれません。

 金融工学については詳しくはありませんが、金融工学で用いるブラック・ショールズの方程式にはブラウン運動がその考えに入っていたり、流体力学で用いるナビエ・ストークスの方程式を用いることもあるそうです。

 株取引を分子運動として捉えることは、あながち間違った見方とは言えないのかもしれません。

(2019/6/14)

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*1:気体の状態方程式には、いくつかのバリエーションがあり、数密度を変数とする状態方程式  pV=Nk_BTの方が、私のイメージには合います。気体分子の運動を前提とするこの状態方程式のk_BTの項は、一つの分子が持つ平均的なエネルギーを表します。この項は、株価決定式の貨幣回転率rに対応します。貨幣が紙幣なら、回転率rは言うなれば、1枚の紙幣がどれだけ人の手に回り、運動するか、という紙幣のエネルギーを表します。