ゲゼルマネー経済学入門~ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

ゲゼルマネー経済学入門

ゲゼルマネーを導入して、好景気にしよう

【年金】第2回 2000万円を貯蓄する

 20歳から60歳の間の40年間で2000万円を積み立てる場合を考えてみましょう。運用利回り0%なら年額50万円の積み立てが必要ですが、運用益が得られれば、積立金額は少なくて済みます。

 今回は、どのくらいの運用利回りが得られれば、どのくらいの積立額で済むかを、いくつかのシナリオのもとシミュレーションしてみました。

1. 積立額と運用残高

 図は運用利回り3%のときの積立額と運用残高の関係を示しています。この場合は、月々26万円、積立総額1030万円で2,000万円の資産を形成することができます。

 また、運用額が大きくなる最後の10年間で380万円の運用益を稼ぎ出すことができています。これは、最初の25年間の運用益よりも大きい額です。複利の効果が効いています。

 運用利回りが良ければ、同じ積立額でも多くの貯蓄をできますし、目標とする貯蓄が同じであれば、積立額を少なく済ますことができます。

 数十年にも及ぶ超長期投資では、小さな運用利回りの違いでも、大きな結果の違いとなります。

運用期間10年 15年 20年 25年 30年 35年 40年
積立額 258万円386万円 515万円 644万円 772万円 876万円 1,030万円
運用残高304万円493万円 713万円 967万円 1,262万円1,604万円2,000万円
運用益 +46万円+107万円+198万円+323万円+490万円+703万円+970万円
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積立額と運用残高。運用利回り3%の場合。

2. 65歳からの約5万円を引き出すための資金形成

 総務省統計局の2017年の家計調査報告*1では、高齢夫婦無職世帯で月々54,519円が不足分とされています。

 また金融庁の金融審議会の報告書*2では、家計調査報告のデータをもとに「不足額の総額は1,300万円~2,000万円になる」としています。

 ここでは、次の3つのシナリオについて、必要な月々の積立額を試算しました。運用利回りは0%~5%で、それぞれ計算しています。

  • シナリオ①:40年間定額積立し、2,000万円を貯める場合。
  • シナリオ②:20歳から60歳まで定額積立し、65歳から90歳まで月々54,519円を引き出し、90歳で残額0円の場合。
  • シナリオ③:20歳から60歳まで定額積立し、65歳から90歳まで月々54,519円を引き出し、90歳で残額1,000万円の場合。

 シナリオ①は、40年間で2,000万円を貯蓄するシナリオです。シナリオ②、シナリオ③は65歳から月々54,519円引き落として、90歳時点で運用残高をゼロの想定と、余裕を見て残高1,000万円を想定した場合です。

シナリオ①:40年間定額積立し、2,000万円を貯める場合

 利回り0%であれば、年額50万円の積立てが必要ですが、利回り3%であれば、約半分の26万円で、2,000万円を積み立てられます。

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シナリオ②:月々54,519円の引き出し(90歳で残額0円)

 20歳から60歳まで定額積立し、65歳から90歳まで月々54,519円を引き出し、90歳で残額0円の場合です。

 残高のピークは、利回り0%の最悪の場合で1,700万円です。2,000万円必要なのは、95歳まで生きる場合なので、90歳の想定で若干少なくなっています。

 必要な積立額は、利回り0%で42万円、利回り3%で13万円と、1/3以下の積立額で済みます。

 シナリオ①では利回り0%と利回り3%での必要積立額の差は1/2程度でしたが、シナリオ②では1/3となりました。これは、想定する運用期間が40年から70年に伸びた影響が大きいです。

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シナリオ③:月々54,519円引き出し(90歳で残額1,000万円)

 20歳から60歳まで定額積立し、65歳から90歳まで月々54,519円を引き出し、90歳で残額1,000万円の場合です。

 必要積立額は、利回り0%で67万円、利回り3%で19万円となります。やはり、1/3以下の運用額で済みます。月々1万6000円にも満たないです。

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運用利回りに対する必要積立額

 運用利回りに対する必要な積立額を表とグラフにまとめました。

 運用利回りが3%程度あれば、月々2万円前後の定額積立でも、老後25年間、月々約5.5万円の支払いに十分な資産が形成できることが分かります。特に90歳時点で老後資産を全て使いつくすつもりであれば、利回り3%で運用できれば、月々1万円ちょっとの積立で済みます。

 また、2,200万円を3%で運用できれば、年間66万円(=5.5万円/月)の運用益が得られますので、元本に手を付けずに配当だけで、月々の生活費の不足分を補うことができます(シナリオ①で貯めた2,000万円を65歳まで3%運用できれば、2,318万円になります)。

表. 各シナリオ、各利回りで必要な積立額。 年額、単位は円。
運用利回り0.0% 0.5% 1.0% 1.5% 2.0% 2.5% 3.0% 3.5% 4.0% 4.5% 5.0%
シナリオ①50万45万40万36万32万29万26万23万20万18万 16万
シナリオ②42万35万29万24万20万16万13万11万9.0万7.4万6.1万
シナリオ③67万54万44万35万29万23万15万19万12万9.7万 7.8万
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運用利回りに対する必要積立額。

3. 国民年金の積立

 今回、シミュレーションに使ったプログラムを使って、国民年金についても必要な運用利回りを計算してみました。

国民年金の保険料16,410円*3(年額196,920円)を40年間積立て、65歳から90歳まで月額65,008円*4支給する場合に必要な運用利回りは、2.46%です。支給開始年齢を60歳としても、運用利回り3.14%あれば十分です。

 この程度の運用益が得られれば、国民年金は賦課方式ではなく、積立方式で、しかも、税金投入することなく年金制度は運用・維持できたはずです。

 現在、GPIFによる年金運用の利回りは実質値で3.01%(2001年からの17年間の平均、賃金上昇率で実質化)です*5。この運用成績からすれば、65歳からの給付開始なら、国民年金も積立方式で運用可能です(が、既に賦課方式にしてしまった制度を積立方式に戻せるのか?という問題はあります)。

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4. 最後に

 ここで示した利回りと貯蓄のシミュレーションでは、インフレや税金を考慮していません。インフレを考慮すれば、例えば、必要な運用利回りが3%、インフレ率2%であれば、名目運用利回りとしては5%が必要となります。利息・配当に20%課税されるなら、6.25%の名目運用利回りが必要となります。

 個人で預金や債券で運用している限りは、実質運用利回り3%を確保することは難しいでしょう。というのは、金利とインフレ率は乖離することはありますが、長期に亘って金利がインフレ率よりも3%以上となり続けることは、これまでなかったからです*6

 一方、株式の場合は、預金よりもインカムゲインが良く、さらに株式価格がインフレや経済成長に連動します。米国株式であれば、例えば、ダウ平均は、1989年6月30日の2,440ドルから2019年6月19日の26,504円と30年間の間で10倍以上の価格となっています。為替変動は、1ドル143.92円(1989年6月)から107.77円(2019年6月20日)で約3割ほどドルは安くなっていますが、(日本は30年間でほとんどインフレはありませんので)実質利回りで約8倍のパフォーマンスが得られたことになります。年率換算で7.1%です。つまり、米株投資をしていれば、十分実質3%利回りは可能だったのです。

 日本の年金も、米国株の半分でいいから、運用利回りが得られていれば、現在の年金問題は発生していなかったでしょう。

(2019/6/20)

関連記事

*1:総務省統計局, 「家計調査報告(家計収支編)-平成29年(2017年)平均速報結果の概要-」, 2018.2.16公開. PDF資料

*2:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書, 「高齢社会における資産形成・管理」. 2019.6.3. PDF資料p21

*3:日本年金機構, 「国民年金保険料」, 2019.5.7.

*4:厚生労働省, 「平成 31 年度の年金額改定についてお知らせします~年金額は昨年度から 0.1%のプラス改定です~」, 2019.1.18.

*5:年金積立金管理運営独立行政法人(GPIF), 「平成29年度業務概況書」
 実質化は名目賃金上昇率を基準としています。2001年から17年間の平均の名目運用利回りは2.78%、名目賃金上昇率は-0.22%から、実質的な運用利回りを3.01%と計算。名目運用利回りは、運用手数料等を控除した後の値です(p15)。
 GDPデフレータから計算すると、114.08(2000)の値と102.83(2017)の値から、 ^{17}\sqrt{\frac{102.83}{114.08}}-1=-0.61%なので、GDPデフレータベースの実質利回りは2.78+0.61=3.39%となります。
 また、アベノミクスによる株買い支えがある点は差し引いてみた方がよいことや株価は変動が大きいので、キャピタルゲインについてはまだ不確かな利益ですが、インカムゲインは1.60%あるので、この部分は確定した運用益と考えてよいと思います。

*6:ファイナンシャルスター, 「金利とインフレ率推移(チャート・変動要因)【①先進国】」, 2019.4.25.。日本、米国、ユーロ圏、スイスに関しては、平均すれば金利とインフレ率が同程度になっています。イギリスの2008年までの政策金利については、例外的に長期に亘り政策金利がインフレ率を上回っています。