現在、日本では、異次元緩和という名のもとに日銀による国債引き受け、つまり、実質的な財政ファイナンスが行われています。財政ファイナンスを行うと、ハイパーインフレになると言われますが、そのメカニズムはどのようなものでしょうか?
今回の記事では、貨幣数量説に基づいて、簡単なインフレ率の数値計算シミュレーションを行います。
1. 貨幣数量説に基づくインフレ率
貨幣数量説におけるフィッシャーの交換方程式から、インフレ率に関する次の関係式を得ることができます*1。
ここで、
この式を用いて、インフレ率を推定します。
2. 貨幣供給とインフレ率
インフレ率のシミュレーションでは、実質GDP成長率 、貨幣回転率の変化率 は外部パラメータとして与えます。従って、右辺の変数としては、貨幣増加率 のみです。この節では、貨幣増加率について述べます。
2.1 貨幣増加率
市中の貨幣量 、つまり、マネーストックには次の3つ種類があります*2。
- 貨幣量 :市中銀行による信用創造
市中銀行の融資・国債購入によって、預金通貨を発行した場合に増加する*3。 - 貨幣量 : 国債の日銀引受を伴う政府支出(財政赤字)
国債を日銀が引き受け、政府支出を行うと、市中の貨幣量が増加する。このとき、日銀当座預金残高も増加する。 - 貨幣量 :日銀当座預金残高への付利
日銀当座預金に対して、利息を支払う場合。一旦、銀行の資産になるが、銀行預金への利払いなど銀行支出を通じて、市中の貨幣量が増加する。このとき、日銀の純資産は減少する*4。
すると、貨幣増加率は次式となります。
2.2 日銀付利による貨幣増加量
インフレ時には、通常は、政策金利を上げて、景気の過熱を抑えます。この際に当座預金への付利が必要になります。これは、FRBの量的緩和の出口においても行われている方法で、一般的な考え方です。
日銀付利による貨幣増加量 は、名目利子率 と日銀当座預金残高 を用いて、次式で表すことができます。
ここで、日銀当座預金残高 は、次式となります。
従って、
2.3. インフレ率
従って、インフレ率 は、次のように表すことができます。
3. インフレ率のシミュレーション
3.1 更新則
次を仮定して、インフレ率 の変化をシミュレーションしました。
① 実質GDP成長率 、貨幣回転率の変化率 、実質利子率 は一定。
② 信用創造・財政赤字による貨幣増加量 は、インフレ率 に従って増加。
ここで、財政赤字 は、国債の利払いによる増加を想定していません。つまり、日銀が引き受ける国債は無利子国債です(統合政府として見た場合、有利子でも、無利子でも統合政府の債務残高は同じです)。
③ 名目利子率 は、インフレ率 と実質利子率 によって更新。
マイナス金利にはならないようにしています。
④ 日銀当座預金残高 は、次式で更新。
⑤ 貨幣増加量 は、次式で更新。
⑥ インフレ率 は次式で更新。
3.2 パラメータ
シミュレーションに当って、特に指定しない場合には、初期値(における値)は次の値を用いました。
- 貨幣量 :1,344兆円(2019年3月のマネーストックM3*5)
- 日銀当座預金残高 :394兆円(2019年3月末現在の残高*6)
- 市中銀行による貨幣量 :0円
- 市中銀行による貨幣増加量 :13.6兆円
(直近5年間の国内銀行の貸出残高増の年平均。2014年3月(440兆円)と2019年3月(508兆円)から計算*7) - 財政赤字による貨幣量 :880兆円 (2018年度の普通国債残高)
- 財政赤字による貨幣増加量 :27.0兆円
(2017年度(853.2兆円)から2018年度(880.2兆円)の普通国債残高の差額*8)
国の債務は、1000兆円を超えると言われますが、ここでは、普通国債の880兆円のみとして =0としました。市中銀行による貨幣量も =0としましたが、今回の計算モデルでは、これらの値はインフレ率の計算結果に影響を与えません。
4. シミュレーション結果
4.1 貨幣回転率変化率パラメータを変更した場合
貨幣回転率の変化率 を変更して、その影響を調べました。条件は、以下の通りです。
- 実質GDP成長率 =0%
- 実質利子率 = 0%
- 貨幣量 = 1344兆円
- 日銀当座預金残高 = 394兆円
- 市中銀行による貨幣増加量 = 13.6兆円
- 財政赤字による貨幣増加量 = 27.0兆円
マネーストックM3貨幣回転率の変化率 は、この20年の間は、経済情勢に応じて、-5%~+1%の間で推移してきました(貨幣量回転率の変化率の推移)*9。金融危機、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災に際しては-3%を下回ることがありました。
の理論式からすれば、 が小さくなることで、デフレになります。ここのシミュレーションでも、 = -3%でデフレを再現しています。
一方、 が大きくなると、インフレ率は急速に大きくなります。
この計算では、v=0%の場合でも2年目で4%のインフレとなります。 がそれよりも大きいと、さらに高いインフレとなり、何年か経つとハイパーインフレのレベル*10の高率のインフレとなります。
このシミュ―レーションでは、 は一定の値として計算していますが、途中で が急上昇、つまり、貯蓄を使うようになると、もっと短時間でハイパーインフレになることが考えられます。
貯蓄の減少は、賃金の伸びが物価上昇に追いつかなければ発生します。このような事態になると、 が上昇する可能性があります。
但し、この計算の理論式は、 ですので、実質GDP成長率が増加すれば、 の増加をキャンセルします。このため、インフレにもデフレにも振れる可能性がありますが、実質GDPの落ち込みをカバーできるように財政支出すれば、インフレ亢進となります。
貨幣量 は、当初は市中銀行による貸し出しの13.6兆円と財政赤字の27兆円の計40兆円です。これは、マネーストック1,344兆円に対して約3%の値となります。
によってインフレ率は決まりますが、今回の計算では、 は定数として与えているので、インフレ率は基本的に貨幣量の増加率 を反映したものとなります。この貨幣増加率 に対して、定数値である を足せば、インフレ率のグラフが得られます。先の図では、=0%で計算していますので、実際には、 で、貨幣増加率 にを足し合わせれば、インフレ率のグラフとなります。
貨幣量 の内訳を見ると、当初は小さかった日銀当座預金への付利による貨幣量 が、インフレが進むに従って巨額になっていきます。これは、利払いによって借金が雪だるま式に膨らむ構図と同じです。日銀当座預金へ利息を支払うことで、当座預金残高が増え、さらにその増えた当座預金残高に利払いが加わることで、指数関数的に付利による貨幣量 は増えていきます。
これに対して、財政赤字や市中銀行による貨幣量の増加量 、 は、インフレ率に応じて増えます*11が、指数関数的には増加しませんので、付利による貨幣量の方が時間が経つに従って支配的になります。
インフレが進むに従って、日銀当座預金残高 が急増します。主な要因は、付利による貨幣供給 です。
ここでの政府債務とは、国債発行残高 のことです。政府発行の国債は、日銀引受を前提に、無利子国債としています。
無利子国債のため、政府債務の伸びは、利払いによる貨幣量 に比べれば、大きくなりません。無利子国債の日銀直接引受で、実際の有利子負債は日銀当座預金に変換され、雪だるま式に増えるのは、日銀当座預金の方になります。
ここで示す統合政府債務は、政府債務 と付利による貨幣量 の和です。実際には、日銀当座預金や自己資本、保有国債などを勘案して計算する必要がありますが、その分は無視していますが、増加を見る分には影響を与えませんので、これで代替してもよいかと思います。
日銀の自己資本は極僅かですので、付利によって、日銀は債務超過に陥ります。これを財政によって補完することなく、債務超過を続けるというモデルで計算しています。債務超過分を国債発行・日銀引受とすれば、そのまま、政府債務となりますが、統合政府債務としては変わりません。
統合政府債務は、20年後には、例えば、=+3%の場合で1.5京円、=+5%の場合で6.4京円にも債務が膨れ上がります。一方、=-3%の場合には、ほとんどが毎年の財政赤字による国債の増加のみなので、1,400兆円の債務に留まります。
対GDP比の政府債務については、例えば、=+5%であれば、237%から16%と大幅に減少します。これは、インフレ率に応じて名目GDPが成長するのに対して、政府債務に関しては無利子国債発行モデルのため、インフレ率を反映しても指数関数的に増大することはないからです。
一方、付利による債務を含めた対GDP比の統合政府債務については、=+5%のハイパーインフレの場合であっても、152%にしか減少しません。
デフレの =-3%の場合では、政府債務・統合政府債務ともに、237%から432%に増加します。預金に対して、マイナス金利を適用していないために、毎年の財政赤字の積み上げと、名目GDPの縮小によって、対GDP比債務が上昇します。
4.2 付利しない場合
前節と同じパラメータで、付利を行わない場合をシミュレーションしました。付利した場合のようにインフレ率が急速に亢進することはありません。
しかし、付利しないでインフレが発生しないのは、0%金利の金融抑圧*13が成功した場合です。通常は、金利を引き上げなければ、ここで示したメカニズムとは異なるメカニズムでインフレが亢進します。
貨幣の増加は、市中銀行の信用創造による貨幣量 と、財政赤字による貨幣量 のみで、それぞれインフレ率に応じて増加するようにしていますが、指数関数的に増加するわけではありませんので、付利を行った場合に比較して、緩やかなインフレ率の増加になっています。特に を-2%~-3%すると、現在のインフレ率と同程度のインフレ率となります。
=+3%のときの貨幣量の内訳を見ると分かるように、増加しているのは、市中銀行の貨幣量 と財政赤字の貨幣量 で指数関数的に増加することはありません。
政府債務と日銀債務を合わせた統合政府債務は、 に応じて、大きくなったり、小さくなったりします。特に対GDP比の統合政府債務については、付利しない場合と同じ程度の値になっています。
ここで示したシミュレーションではインフレが急激に進むことはありませんでした。しかし、インフレ時に低金利にした場合、ここでのシミュレーションとは違ったメカニズムでインフレは亢進します。このため、インフレ時には、通常は、政策金利を上げて、景気の過熱を抑えます。そして、政策金利の引き上げの遅れが、その後の経済破綻に繋がった例は数知れません。例えば、日本のバブル景気や米国のサブプライムローンバブルが代表例でしょう。
財政ファイナンスによって巨額の当座預金が溜まってしまうと、付利以外の方法で金利を上げていくことは困難になります*14。しかし、付利した場合でも、前節のようにインフレを亢進してしまうために、インフレ制御が困難となります。巨額になった日銀当座預金が、金利調整という金融政策手段を奪ってしまうのです。
4.3 財政赤字パラメータを変更した場合
一部の財政拡大派の方々は、現状よりもさらに30兆円程度は財政赤字・赤字国債を増やしても、インフレにならないと主張しています。ここでは、財政赤字 をパラメータとして、シミュレーションを行いました。
日本の貨幣回転率の変化率 と実質経済成長率 の差 の値は、およそ-2.0%~-2.5%の値で推移しています*15。それぞれの値には年によって大きくブレますが、平均すれば、 = -1.5%前後、=1%前後です。ここでのシミュレーションは、=1%、 = -1.5%として、それ以外の条件については、前節のシミュレーションと同一条件としました。
(政府債務については、こちら)
現状の単年度の財政赤字 =27兆円ですが、この場合のインフレ率は0.5%程度と低いインフレ率です。一方、33兆円財政赤字を増加させた =60兆円の場合には、3年目以降は4%程度の高めのインフレ率で推移していきます。また、=40兆円で2%程度のインフレ率となります。
財政赤字による国債発行で貨幣量を増やすことで、インフレになることが分かりますが、このシミュレーションからすれば、60兆円の財政赤字は行き過ぎた財政支出と言えます。
4.4 財政赤字を年60兆円にした場合
4.3節のシミュレーションで、財政赤字 =60兆円で固定し、貨幣回転率の変化率 を変更しました。
(政府債務については、こちら)
=-1.5%の場合が、4.3節のシミュレーションと同じ結果ですが、貨幣回転率を上げていくと、高インフレになっていき、ハイパーインフレにもなります。=+2%程度でもハイパーインフレになっています。
米国で、貨幣回転率が上昇している1990年から1995年には、M2ベースの貨幣回転率の変化率が 5年で約15%、1年で約3%となっています。つまり、=+2%や+3%は、通常の経済状態でも発生します。つまり、財政ファイナンスを行った場合、回転率が上昇する局面でハイパーインフレとなる可能性があるということです。
5. シミュレーション結果について
は、現状のインフレ率を正しく説明する。
このシミュレーションは、現状のインフレ率については正しく説明します。なぜなら、貨幣回転率の変化率 は、 から計算されるからです。、、 は現状の経済統計から求められるもので、の方程式が成り立つように、 を決めていると言ってもよいでしょう。従って、現状と、初期段階(1年目など)のインフレ率等に大きな数字のズレがあれば、それは、設定したパラメータが現状を表すパラメータではないということです。
つまり、このシミュレーションで、現時点のインフレ率は正しく説明できて当たり前で、正しく説明できなければ、どこかに問題があるということです。
デフレは極端に悪化しない。
貨幣回転率の変化率 等のパラメータを大きく動かしても、極端なデフレになることはありませんでした。
貨幣量 は、増加する前提の計算ですので、デフレになるためには、貨幣回転率 が低下していくこと、あるいは、実質GDP が増加していくことが条件です。経済成長についてはシミュレーションでは、一定としていますが、極端に実質GDP成長率 が大きくなることはありませんので、貨幣回転率 が主なデフレ要因になります。しかし、 を-3%と大き目にしても、-1%のデフレにしかなりませんでした。
高インフレはすぐに発生し、ハイパーインフレも生じ得る。
パラメータの変更次第で、直ぐに高インフレになり、ハイパーインフレになる場合もしばしば生じます。財政赤字 などのパラメータは政策的にコントロール可能ですし、通常であれば実質経済成長率 は極端に変動することはないと思います。現在の日本では、 は-2%程度で安定していますが、これは人々の消費行動の変化によって大きく変わり得るもので、政策的なコントロールは困難と考えられます。この値が大きくなる、つまり、消費行動に走るようなことが起こったときに、制御できない高インフレとなる可能性があります。
付利すれば、日銀はすぐに債務超過となる。
現在の日銀の自己資本は、8兆円程度です。1%付利でも年4兆円の損失が発生しますので、2年もあれば、日銀は債務超過に転落します。
当座預金付利のモデルは、10兆円や100兆円どころか、場合によっては数京円にも上る債務超過に日銀が陥ります。中央銀行の債務超過は、政府の中央銀行への出資によって回避することはできますが、その出資金も中央銀行の国債引き受けによって調達されるのであれば、単なる見かけ上の債務超過の回避で、中央銀行負債が政府に移転されただけです。中央銀行の債務超過が問題視されない場合とは、統合政府として見た場合の政府債務が問題視されないという前提がある場合でしょう。
しかし、実際には、中央銀行が、巨額の債務超過に陥った場合、その国の通貨の信任が得られるとは考え難いです。つまり、極端な通貨安に見舞われて、大変な経済的混乱が生じると考えられます。つまり、当座預金に付利を行えば、中央銀行の債務超過によって、早い段階で経済破綻に陥ります。
付利しなければ、景気過熱により、民間貸付による貨幣供給 が増えていき、インフレの悪化させることでしょう。今回のシミュレーションでは、 はインフレ率に連動させて増やしているだけなので、景気過熱による の増加は考慮されていません。このため、付利しない場合のシミュレーション結果ではインフレ率が急上昇することはありませんが、景気過熱による貨幣供給の変化を考慮すると、インフレ率は急速に高くなると考えられます。
高インフレでも対GDP比の政府債務はあまり減らない。
高インフレになっても、対GDP比の統合政府債務はあまり減少しませんでした。これは、債務に対して、名目利子率 = インフレ率 の条件で計算しているため、日銀当座預金の負債が雪だるま式に増えてしまうためです。インフレ率 > 名目利子率 であれば、対GDP比債務はより減少していくことになるはずですが、実質利子率 を1%~2%程度動かした程度では、結果に大きな変化はありませんでした。
また、付利された貨幣が預金にそのまま銀行預金に反映されるのであれば、今回のシミュレーションでは、名目利子率 = インフレ率 のため、預金は実質的には目減りしません。この点は、実際にインフレが起こったといに発生する現象を再現していません。
6. が大きくなるのは、どのような場合か?
今回のシミュレーションでは、 は一定として計算しています。しかし、 はインフレ率が変化すれば、大きく変化する可能性がある変数です。
次のような経過を経る場合には、 が大きくなると考えられます。
- インフレが発生する。
- 賃金の上昇がインフレに追従していない。
- 貯金を取り崩して、消費する。
インフレによって、節約し、消費量は減ったとしても、消費額としてはこれまで同じであるならば、 の は、 の上昇と、の下落がキャンセルし、 は変化しません。
節約を励み、貯蓄量が増大すれば、 は減少しますが、生活が苦しくて貯金を取り崩して消費に回せば、 は上昇するはずです。
の視点で見れば、消費量 が減少し、貯蓄の取り崩しで が増大となるので、インフレ率 を増大させるということになります。
2014年のアベノミクス不況では、物価が上昇しましたが、賃金はほとんど上昇せず、消費を減らしたことで、消費量が減少しました。このとき、 は(前年に比べれば若干小さくはなっているもの)前々年に比べると2%近く大きくなっています。家計調査報告によれば、この年、世帯平均の貯蓄率はマイナスになっているので、低所得者を中心に貯蓄の取り崩しが発生したと思われます。
この因果の関係は、物価上昇 ( の増加) →実質賃金低下→消費量の低下( の低下)・貯蓄の取り崩し( の上昇)でしょう。
貯蓄の取り崩しがさらに進んでいけば、 の増大によって、インフレが亢進します。但し、取り崩して消費に回されたお金が、別のところに溜まれば、 は小さくなりますが、物価の上昇に伴って、コストや賃金の上昇によって、企業にもお金が溜まらなければ、インフレ循環に入ると考えられます。つまり、物価上昇と賃金上昇は連動するものの、その間の時間的なずれによって生活費不足で、貯蓄が減少していくと、インフレの連鎖が発生します*16。また、このような状態の場合に、景気対策で財政出動すれば、さらに貨幣供給され、インフレが進みます。
アベノミクス不況の場合は、賃金上昇がなく、企業にお金が溜まることで、インフレ循環に入ることなく、デフレから脱却できなかったと考えられます。
7. 最後に
財政ファイナンスを行った場合のインフレ率のシミュレーションを行いました。
財政ファイナンスを行った場合、貨幣回転率が増えていくということがなければ、比較的安定な推移を得ることもできます。しかし、貨幣回転率が上昇していけば、高インフレ、場合によっては、ハイパーインフレに陥ることが分かりました。
貨幣回転率、すなわち、消費者や企業の貯蓄行動は、政策的に制御することは困難です。現在の貨幣回転率は安定的な推移を示していますが、経済的状況の変化によって、貨幣回転率が大きく変動すれば、インフレ制御に失敗する可能性が高いと考えれます。
なお、MMTを推進するケルトン教授によれば、「利上げでインフレになる」とのことです*17。ケルトン教授の理解とは違うかもしれませんが、「(財政ファイナンスすれば)利上げでインフレになる」という結論は今回のシミュレーションでも得られました。
(2019/7/30)
(追記:2019/8/23) このシミュ―レーションでは、金利上昇による民間の信用創造の抑制効果をモデルに入れ込まず、市中銀行による貨幣増加量 はインフレ率に比例して増加するとしています。金利上昇による抑制効果を考慮すると、若干インフレ率は小さくなると思いますが、極端な減少でもしない限りは、大勢に影響はないと思います。
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- インフレ率・経済成長率と貨幣量の変化率との関係式(フィッシャーの交換方程式からの導出) - ゲゼルマネー経済学入門
- 日本における貨幣回転率とその変化率 - ゲゼルマネー経済学入門
- 預金通貨の発行-信用創造・政府支出・銀行支出・現金入金 - ゲゼルマネー経済学入門
シミュレーション用のプログラム (octave)
*1:インフレ率・経済成長率と貨幣量の変化率との関係式(フィッシャーの交換方程式からの導出) - ゲゼルマネー経済学入門
*2:預金通貨の発行-信用創造・政府支出・銀行支出・現金入金 - ゲゼルマネー経済学入門
現金(紙幣・貨幣)については、預金通貨との交換ですので、貨幣供給としては取り扱いません。
*3:国債の場合、厳密には発行国債によって得られた資金を政府が支出した段階で貨幣量が増えます。
*4:現状の日銀のように利益を生まない資産が多いと、付利によって逆ザヤとなり債務超過に陥る可能性があります。減少した純資産を日銀引受による国債発行に得られた資金で、日銀に資本注入を行っても、この場合の国債発行では、市中の貨幣量には影響を与えません。
*5:日本銀行, 「マネーストック速報(2019年4月)」, 2019.5.15.
*6:日本銀行, 「第134回事業年度(平成30年度)決算等について」, 2019.5.29.
*7:日本銀行, 「預金・貸出関連統計(預金・現金・貸出金)」
*9:日本における貨幣回転率とその変化率 - ゲゼルマネー経済学入門
*10:国際会計基準のハイパーインフレは、3年で2倍の物価高。これを年率にすると、約26%となります。
*11:もともとインフレ率に応じて増えるように計算していますが、このパラメータ設定の場合には、名目GDP成長率との比は同じで、財政規模が名目GDP比で同じであれば、財政赤字も同じ比率で増えることになります。
*12:日銀から銀行に利子が支払われると、まずは、銀行資産が増えます。それを銀行預金の利息等に支払うことで、市中の貨幣量が増加します。このとき、銀行のバランスシートは利息分だけ大きくなります。
*13:池田信夫, 「日本は「金融抑圧」で政府債務を踏み倒せるか」, アゴラ, 2019.3.13.
アダム・スミス2世の経済解説, 「金融抑圧による財政再建 イギリスと日本」, 2015.2.20
*14:たとえ、国債売りオペで国債金利を適正水準に上げられたとしても、銀行が保有できる高金利国債は、銀行資産の中ではわずかで、ほとんどが日銀当座預金のままです。つまり、金利が上がったとしても、銀行は預金金利を引上げるために必要な原資が得られないということです。つまり、銀行預金の金利はゼロのままです。このゼロ金利の預金が、例えば、インフレに耐性がある他の金融商品や不動産資産にシフトすれば、資産バブルが発生し、資産効果により景気が亢進・過熱します。
*15:日本における貨幣回転率とその変化率 - ゲゼルマネー経済学入門
*16:インフレ率・賃金上昇・貨幣回転率の関係を微分方程式を用いて表せるような気がしますが、良く分かりません。
*17:Bloomberg, 「ケルトン教授、金融政策は財政政策に従属的な存在へ-インタビュー」, 2019.7.19.
池田信夫, 「「利上げしたらインフレになる」ケルトンの珍理論」, 2019.7.21